『汝、星の如く』が刺さった人へ。凪先生の『多類婚姻譚』も絶対に読んでほしい

凪良ゆう『多類婚姻譚』の書評アイキャッチ画像

凪良ゆう先生の最新作『多類婚姻譚』について紹介します。
今回の作品も読んでいて非常に考えさせられ、様々な感情が想起されるような素敵な作品でした。

凪良ゆう先生の作品は、私たちの心の奥底に潜む感情や、ままならない人生の機微を鮮やかに描き出し、多くの読者の共感を呼んでいます。

ペンさん

汝、星のごとくは泣けました、、、

本屋大賞を二度受賞した『流浪の月』、そして、愛と人生の複雑さを問いかけた『汝、星のごとく』は、その代表作と言えるでしょう。もしあなたが『汝、星のごとく』を読んで、登場人物たちの生き様や、社会との摩擦の中で揺れ動く心情に深く心を揺さぶられたのであれば、ぜひ凪良先生の最新作『多類婚姻譚』(たるいこんいんたん)も手に取ってみてください。

この作品は、現代日本における「婚姻」を多角的に捉え、セクシュアリティ、ジェンダー、金銭感覚、世代間格差、生育環境といった、人と人との間に存在する多様な「違い」が織りなす人間模様を、深く、そしてリアルに描き出しています。結婚という普遍的なテーマを通して、現代社会の複雑な価値観と、人間そのものの多面性に鋭く切り込んだ本作は、きっとあなたの心にも新たな問いと気づきをもたらすはずです。

目次

「多類婚姻譚」が問いかける、現代の「分かり合えなさ」

『多類婚姻譚』というタイトルは、人間と人間ではない存在が結ばれる説話「異類婚姻譚」をもじったものです。

このユニークなタイトルには、同じ人間であるはずなのに、まるで異なる種族であるかのように価値観がすれ違い、分かり合えない現代の人間関係の複雑さが込められています。

作品を読み進めるうちに、「なぜ同じ人間なのに、こんなにも分かり合えないのだろう」という、根源的な問いが読者の心に突き刺さります。それは、単なる誤解やコミュニケーション不足ではなく、個々人が持つ深い背景や、社会が作り出す多様な価値観が複雑に絡み合っているからこそ生まれる「分かり合えなさ」なのです。

マイノリティの葛藤と、社会の「見えない壁」

この作品で特に印象的なのは、連作短編の冒頭を飾る、バイセクシャルの女性の物語です。彼女が恋人と実家に帰省する際、自身のセクシュアリティを親に伝えるべきか否か、深く葛藤する姿が描かれています。事前に伝えておくべきか、しかし伝えたところで親は理解してくれるだろうか、あるいは、どうせ会ってくれないのではないかという不安。この描写は、世間一般の「普通」とは異なる生き方を選ぶ人々が、日常の中で直面する「見えない壁」を浮き彫りにします。

ユーザー様が感じられたように、「親に挨拶に行くなら、事前に言っておけよ」という思いと、「言ってもどうせ会ってくれないのかな」という諦めが同居する心情は、まさにマイノリティが抱えるリアルな苦悩です。友達にも自分の身の内を簡単には明かせないという状況は、どれほどつらいことでしょうか。心を開ける相手がいても、社会の偏見や無理解を恐れて「言えない」のと、言えるけれどあえて「言わない」のとでは、心の負担が全く異なります。この「言えない」という状況が、どれほど孤独で、深い傷となり得るかを、作品は静かに、しかし力強く訴えかけてきます。

「自認」と「他人からの評価」のギャップが示す現実

そんな深い葛藤を抱える主人公も、会社の同僚から見れば、キャリアを積み、自立した「キラキラした女性」として映っています。本人が内面に抱える苦悩や、セクシュアリティに関する葛藤とは裏腹に、社会的な立場や外見からは「順風満帆な人生を送っている」と見なされる。この「本人の自認と他人からのギャップ」は、読んでいて非常にリアルで、現代社会の複雑さを象徴していると感じました。

私たちは、他者の内面を完全に理解することはできません。表面的な情報や、社会的な役割から、勝手にその人のイメージを作り上げてしまいがちです。この作品は、「結局、他人なんて何を考えているのかわからない」という、ユーザー様の強烈な感想を裏付けるかのように、人間の多面性、そして他者理解の難しさを突きつけます。誰もがそれぞれの「多類」を抱え、その内面と外面のギャップに苦しみながら生きている。この普遍的な真理が、物語の随所に散りばめられています。

多様性の中に潜む「矛盾」と「危うさ」

現代は「多様性」が尊重される時代と言われますが、『多類婚姻譚』は、単に多様性を肯定するだけでなく、その中に潜む矛盾や危うさにも鋭く切り込みます。多様であることを盾に、他者の意見や感情を顧みない態度、あるいは、多様性を尊重するあまり、本質的な議論が避けられてしまう状況。凪良先生は、多様性を深く理解されているからこそ、その光と影の両面を描き出すことができます。

特に、4編目の「Position Talk」では、結婚を目前にした男女が、性差や世代間の価値観の違いに直面し、本当に分かり合って人生を歩んでいけるのかという問いが投げかけられます。現代社会では、インターネットの普及により、どんな意見や考え方にも反論ができてしまう「気の抜けない時代」です。不用意な発言はもちろん、練り上げた言葉ですら、瞬く間に批判の対象となり得る。このような状況下で、自分の価値観をアップデートし、他者とどう向き合っていくのか。作品は、読者一人ひとりに、その問いを突きつけます。

『汝、星のごとく』の読者にこそ「多類婚姻譚」を読んでほしい理由

『汝、星のごとく』が、世間の目や常識に囚われながらも、自分たちの愛の形を模索する登場人物たちの「ままならなさ」を深く描いたように、『多類婚姻譚』もまた、現代を生きる人々の「ままならなさ」を様々な角度から描き出しています。

両作品に共通するのは、表面的な「幸せ」や「正しさ」だけでは語れない、人間の内面の葛藤や、他者との関係性における繊細な機微を丁寧にすくい取っている点です。そして、「分かり合えない」ことの痛みや、それでもなお「共に生きよう」とする人間の強さ、あるいは、その現実を受け入れる諦めをも描いています。

『汝、星のごとく』で、愛すること、生きることの難しさに共感した方であれば、『多類婚姻譚』で描かれる、現代の婚姻制度や人間関係の複雑さに直面する人々の姿にも、きっと深く心を揺さぶられるはずです。

まとめ

『多類婚姻譚』は、結婚というテーマを入り口に、現代社会における人間関係の複雑さ、多様性の中に潜む矛盾、そして個々人が抱える内面の葛藤を深く掘り下げた作品です。

もしあなたが『汝、星のごとく』を読んで、登場人物たちの生き様に心を奪われたのなら、ぜひこの『多類婚姻譚』も手に取ってみてください。凪良ゆう先生が描く、現代の「ままならなさ」と、それでもなお前を向こうとする人々の姿に、きっと新たな発見と共感を得られることでしょう。

この複雑な時代を生きる私たちにとって、本書は、自分の価値観をアップデートし、他者との関係性を見つめ直すための、貴重な示唆を与えてくれるはずです。ぜひ、あなた自身の目で、この物語が問いかけるものを受け止めてみてください。

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